2008年3月20日木曜日

相容れぬ二言語間にある身は…実は存在しないのか

入院直前には翻訳をやっていたように思う。入院直後、やっぱり翻訳である。まぁねぇ。思わぬ入院費用がかかりましたからねぇ。ここは一番、少々無理してでもお仕事は引き受けてねぇ。少しでもねぇ。生活の足しに。あぁ働けど働けど充分な飲み代にならず…(っつーか、「充分な飲み代」があると危険なのかも知れんが)。

まぁ、まだ舌も痛いし、黙ってコチコチと翻訳なんかやるのには良いのかも知れぬ。というわけで、チョロチョロと仕事をする。

入院前にやったのは、英語ビデオ(アメリカ英語!いやあぁ)の英語原稿を書き出し、日本語にするという仕事。スーパー医学系で苦労した。昨日終えたのは、某企業ビデオの日本語台本を英語にするという仕事。日本企業節全開で苦労した。今やってるのは、某お役所関係らしいビデオの日本語台本を英語にするという仕事。お役所的中身ナシ言語満開なので苦労する。なんか、ややこしいでしょ。自分でも全然把握できてましぇん。ゔぅわはは。わからん。わからん。

こんなことばかりやってると発狂するから、ボケッと本を読んだり酒を飲んだりボチボチ講釈師業の準備をしたりする。すると我に返ってフッと思う。

つくづく日本語と英語って違う。絶望的に違う。どうしようもなく異なる。よくまぁ翻訳とか通訳とかできるもんだねぇ…っつーか、無理よ、絶対。え。そんなことやる人いるの。詐欺師だよ、そんなの。

とか思いつつ、またお役所的な日本語に戻る。何とかしてよ、これ。一般的に、日本語→英語で苦労するのは「英語的論理の欠如」である。もちろん、別に日本語が悪いわけではないよ。むしろ、英語が狭量かつタカビーなの。

つまり、特にここ200年ぐらい、日本語は狂ったように英語を翻訳して受け入れているから「英語みたいな言い方の日本語」に慣れちゃってるわけです。だから一般に英語→日本語の翻訳はなんとなく誤魔化してやれちゃうというか、「英語ではこういうんだから受け入れなさい」みたいな押しつけがましい日本語がまかり通りやすい。(これは哀しいことですよ。同業者の皆さん、日本語らしい日本語でやりましょうね。)

ところが英語の方は400年ぐらい前にだいたい出来上がっちゃって、その後は英語を人に押し付けるだけである。したがって、(とりあえず個人個人の性格とは無関係に)それなりに頭も固く、態度もでかくなっている。「日本語みたいな英語」を受け入れる態勢にはない。

というわけで、話は戻りまして、一般的に、日本語→英語の方が「やりにくい」のである。んで、特にやりにくいのは、英語的論理のないヤツなのね。要するに、企業・役所関係のオッサン語ですわな。苦労しますよ。

例えば、「大阪は、昔から水の都として知られております。この大阪を守って子供やお年寄りに優しい街にしていくためには…」みたいなの、よくありますでしょ。これをそのまま英語で言ったら、何だかわかんなくなる。「水の都」と「優しい」を何となくつなげるか、あるいは「水の都」を目立たなくさせて論理から追い出すか、…まぁ何とかする必要が生じる。

言ってるオッサンは、たぶん、水の都→キレイな環境→だから弱者にも優しい→でも最近は公害等で大阪も汚れたかも→弱者に優しいキレイな大阪を守れ→…と思ってるオレってエライでしょ、どう?… みたいな意味が頭の中をぐるぐる回っている。しかし、これを明確に論理化・言語化せず、この本音のあちこちをカスりながら言葉にする。結果、先程のような日本語が出てくるという仕掛けである。早い話、相手に物事を伝えるための明快な言葉にはならない。むしろ、「明快な言葉をあなたにぶつけるような私じゃないから受け入れてね」というのが、日本の人付き合いにおける重要なメッセージなのだ。

もちろん英語だってそんなオッサン語をやろうと思えばいくらでもできる。ただ、例えば外部向けのビデオの台本を書く時には普通やらないのである。でも日本のオッサンはドンドンやりますな。ここで絶望的なズレが生じる。

そういう時、どうやって翻訳するかというと…それぞれの場合に応じてテキトーに決めるしかないのね。翻訳に一般論はない。個々の場合に応じて個々の言葉をいじるしかない。文の順番を変えてお茶を濁したり、勝手に論理を読み取って言葉を補ったり、無論理なまま放っておいたり、様々な処置が存在する。けど、いつ何をするかについての一般基準なんて不可能ですよ。そもそも、不可能にして無理なことやってるんですから。

とは言え、こうやって愚痴りつつ考えてみると、いつの間にやらこういう「やりにくそう」な仕事ばかり選んでもらってるような気もするなぁ。確かに、ある意味、どんな言語学の論文を読むより面白いという側面はあります。それでお代が頂けるんだからありがたい話でして。

あぁお代か。はぁ。この度は思わぬ入院費用もかかりましてねぇ。苦労しますんですよ。誰か金くれんか。見事に飲んでみせるから。

0 件のコメント:

自己紹介

自分の写真
日本生まれ、日本育ち…だが、オーストラリアのクイーンズランド大学で修行してMA(言語学・英文法専攻;ハドルストンに師事)。 日本に戻ってから、英会話産業の社員になったり、翻訳・通訳をやったり、大学の英語講師をしたりしつつ、「世の中から降りた楽しい人生」を実践中、のはずです。