2008年8月30日土曜日

音を聴く時間

やっと涼しくなってきたかと思えば、まもなく夏休みも終わりである。ああぁ。早いものだ。5時起きも排気ガスも電車通勤もタバコや化粧の臭気も忘れていたが、これがまた…ああぁ考えないようにしよう。楽しく充実した毎日を送りたいですからな。うむうむ。

とか思いながら、ドサ回り仕事用 MacBook の iTunesを眺める。こちらには語学関係とかネット放送番組とか通勤時に聴きたい曲とか新着ネタとかが入っている…が、移動時用の iPod nano に合わせてファイルを7ギガ程度までに抑える必要があるので、こうして休みの間に取捨選択を行なうのである。

で、その前に、さりげなく再生回数の多い曲を見るとですね、一番多いのが Gary Jules with Michael Andrews の 'Mad World' の20回。3分ちょいの曲であるが、合わせて1時間以上聴いていることになる。ひええぇ。

それから Porcupine Tree の 'The Sound Of Muzak' が11回(計55分)。Peter Gabriel の 'Whole Thing' が9回(計50分)。Boston の 'Corporate America' が8回(計37分)。再生を途中で止めるとカウントされないので、実際にはもっと聴いているであろう。へえぇ。忙しいとか言いながら、歩きながら結構聴いてるのねぇ。

待て待て。回数は少なくても、もっと長い曲があるぞ。例えばグールドの「ゴルドベルク変奏曲」は5回(計4時間以上)、金聖響指揮のベートーヴェン交響曲第2番は2回ほど聴いている(計65分)。シェーンベルクの「浄夜」は2回(計1時間)。

本も耳で何冊か読んだ。Orwell の '1984'(12時間)、Stephen Colbert の 'I am America (and So Can You!)'(3.5時間)、Al Franken の 'Lies and the Lying Liars Who Tell Them'(10時間)、同じく 'The Truth (With Jokes)'(10時間)なんかを歩きながら(あるいは電車に乗りながら)読んだ。これに加えて毎日2〜3時間(以上?)のネット放送は聞いている。

こうして考えると、ずいぶんiPodのお世話になっておるなぁ。っつーか、それでも「好きな音楽をもっと聴きたい」と思っている。フツーに本を読む時間ももっと欲しい。ああぁ。いっぺん仕事を辞めて、2年ぐらい音楽三昧・読書三昧で暮らしてみたいものだ。

…などと夢想しつつ、メインのiTunes(目下120ギガほどある;助けて)から音楽を選ぶ。これはこれで楽しい作業である。ああぁ楽しい。そして次の休暇が楽しみだ…。

ドラム叩きの休日

朝起きて淀川のほとりを走る。こういう健康な日課が復活するのであるから、夏休みとはありがたいものである。…と思った途端に二日酔いで走れない日が続いたりするのだが、それはまた別の話。

わずか3キロちょいの道程ではあるのだが、走るときにはナイキ+iPodを利用する。走った距離等々を勝手に記録してくれるし、何か聴きながら走れるので退屈しない。

このナイキ+iPodで便利な機能に powersong というのがある。その瞬間に何を聴いていようと、とにかくiPodの真ん中のボタンをグッと長押しすると、あらかじめ選んでおいた1曲に切り替わるのである。その曲が終わると、また先ほどまで聴いていたものの続きに戻る。普通はポッド放送でニュース番組なんか聴きながら走っているので、この「パワーソング」機能でパッと音楽に切り替わると新鮮である。

この「パワーソング」に選ぶ曲はコロコロ変わる。近頃気に入っているのは Peter Gabriel の 'Whole Thing' である(これは最近出た Big Blue Ball というアルバムに入っております)。その他、Sa Ding Ding の 'Alive' とか、浪速エクスプレスの 'Vacuum Vox' なんかも気分よく走れる。

(これらの曲をご存知の方は、「ん? そんな曲でどうやって走るんだ?」とお思いになるかもしれない。実はですね、その話なんですよ。)

さて、そんなのでペースを上げて走りながら気がついた。自分にとって、音楽のテンポと走るテンポは全く別物なのだ。聴こえてくる音楽のテンポは全く無視している。ノリないしうねりの良い音楽であればバンバン走れる。これには自分でもちょっと驚いた。

世の中の多くの人たちは「自分の走るテンポに合うテンポの音楽」を選んでリストを作っている。色々な曲のテンポを明示した「走るときの音楽を選ぶためのサイト」まで存在する。そういえば軍隊だって運動会の生徒だって行進曲に合わせて歩くではないか。パーティなんかでは音楽に合わせて踊るではないか。あれが普通なのだ。皆さん、音楽に合わせて動くのだ。

'Whole Thing' を聴きつつ、走るテンポを徐々に上げながら考えた。こうやって自分の走るテンポを上げていったりできるのだから、聴こえている曲のテンポには合わせとらん、っつーか完全に無視してるわなぁ。しかし、曲のノリ・うねりに合わせてる感じはあるわなぁ。ははぁ。やっぱ、ドラマーってことか。

ドラマーはリズムに合わせない。これは、ドラムを叩かない人にはあまり知られていない事実かもしれない。

もちろん、「ハイこれに合わせてね」とリズムを提示すれば上手に合わせてくれるであろう。しかし、実のところ、それはドラマーの仕事ではない。ドラマーの役割は、その場のうねりを引き取って、それを表出することにある。

これが習い性となると、日常生活にも持ち込まれる。とゆーか、「そういう人」がドラマーになるわけである。何かにカッチリ焦点を合わせ、それに反応するという行動は苦手である。むしろ、「その場にある何かを取り込んで何らかの焦点を造り出してそれに自分も合わせようとする」というややこしい行動をとる。

だからドラマーには「変な感じの人」が多くなる。目は相手を見ているようで見ていないようだし、何が欲しいのがハッキリしないし、それでいて何か探しているような物欲しそうな顔をしながら結局その場のテンポを引っ張ってしまうということになる。いるでしょ、そういう人。ドラマーなのですよ。

ずいぶん前に読んだ山下洋輔の本に「ドラム叩きはガイキチ」という小文があった。要するにドラマーはオカシイという、そのものズバリの内容である。

一昨年だったか、当時一緒にバンドをやっていた奴とばんばんビールを飲んでいたときもそんな話になった。そいつは「ドラマーはみんな狂ってる(mental)。これまでに何人も何人もドラマーを見たし一緒にやったけど、例外なし。みんな狂ってる」と断言していた。当のドラマーを相手に言うのだから大したものだが、まぁ多くのバンド経験の上で語っているのだからそれなりに拝聴の値打ちはあろう。

そう思ってふと振り返ると、もう20年以上ドラムを叩いている。もちろん中断もしているし、何より最近はめっきり練習もしていないし、大して上手くもない。しかし、どうやらそういう問題でもないらしい。世界から乖離して世界を見つつ世界を造り、その世界から乖離して…という無限グルグル運動においてリズムとうねりを生み出す。そういう矛盾した在り方が習い性となっているヤツはみんなドラマーなのだ。

そんなことを考えながら走ってシャワーを浴びて仕事にかかる。でもすぐ飽きて YouTubeでカール・パーマーのインタビュー(珍しい!ファン必見!)を見る。この人がこんなに長く自分の考えを語るのを初めて見た。結構上手にしゃべれる人である。相手の質問はキチンと聞くし、自分のやっていることについて素直に語れるし、いわゆるロック音楽屋にしては語彙が豊富だし、全体に流れが良い。

ところが何かが変なのである。目が泳ぐ。時として変に自分の世界に入る。自分の好みは語らない。自分のやっている音楽について奇妙なまでに客観的な位置づけを行う。あぁ。これは完全にドラマーだ。

この調子でギター弾きの性格、ベース弾きの性格等々を続けたいような気もするが、何しろ休日ですからな。本日はこれまで。

2008年8月16日土曜日

この種の性向も遺伝子なのか

数年前の話であるが、人間の言語を規定しているらしい遺伝子が特定されたというので話題になった。それはFOXP2という遺伝子で、これに何らかの欠陥があると普通に言語が使えない。

こういう発見は一般受けする。あぁそうか。何でも遺伝子で決まっているのか。人間の言語も、何だか知らないけれどもFOXP2で決まるのか。そうか。そうだと思ったよ…。というわけである。

難読症というのがある。字が読めないのである。学習障害の一種として知られている。そして、やはり難読症にかかわる遺伝子が特定されたことになっている。それはDCDC2と呼ばれる遺伝子で、これに欠陥があると難読症が引き起こされるというのである。

これがまた、受けるのだ。そうか。ウチの子は成績も悪く本も読まず困っていたけれど、DCDC2遺伝子に起因する学習障害なのか。あぁ良かった、とまではいかないにしても、何らかの納得と安心を得る。

統合失調という病気がある。日本語の世界では、かつて分裂病と呼ばれていた。人間理解の鍵を握るとも言われる、大きな謎に満ちた病気である。そういう分野であるからして、関連すると言われる遺伝子もNRG1、14-3-3η、SLC6A4、DRD2、CNR1、CNTNAP2、UHMK1その他いろいろ挙げられている。(もちろんこうやって書いている本人には、これらの遺伝子のどこがどうなっているんだか何なんだか皆目わからない。Natureのサイトからホイホイ書き写しているだけである。)

これだけいろいろ挙げられていることからも明らかな通り、この発想は受けるのである。あぁそうか。いかにも狂ったという様相を呈する典型的な精神病だから何だかコワイと思っていたけれど、遺伝子か。自己の病とか記号の病とか言われて現代哲学のネタになり、難しそうに思っていたけれど、なんだ遺伝子か。そうか。

他の分野でもこの調子で類例を挙げるとキリがないことであろう。何しろこの種の決定論的「説明」は受けるのだ。事実、この種の研究には結構お金が出たりする。つまり「売れる」のである。

もちろんこの種の性向は昔から存在する。遺伝子で決まっているのではないかと思いたくなるほどである。言葉が遅かったり字が読めなかったりする子供はバカと呼ばれ、しかし親は「バカな子ほどかわいい」という諺に支えられて、「神様に何とかしてもらおう」と神社やお寺に参ったりしたのである。もちろんそこには御賽銭箱や御布施袋が待っている。つまり、「これは神様の思し召しである」という説明が売れたわけである。

もちろん、「神の思し召し」ということにしても、「遺伝子で決まっている」ことにしても、本質的には何も変わらない。とにかく何かのせいにし、そしてお金を払うという構造である。

とにかく、自分のせいでもなく、自分の力の及ぶことでもないという説明は売れるのだ。「どうせ、もう、決まってるんです」という説明は売れるのだ。だから占星術も血液型性格診断も宗教的終末論も売れる(売れた)のだ。

いつの日か、遺伝子による説明は売れなくなるであろう。するとまた新しい説明が「発見」され、それが売れるであろう。物事はいろいろ変わりつつ、何かが変わらない。いつものパターンである。

そしてまた、いくら学習障害などと名前を付けても、しつこく強い差別意識が消えることはないであろう。「おまえ、学習障害かよ!」「あいつのDCDC2はボロボロ」といった言語表現が小学校発で広がり、やがて学習障害もDCDC2も差別語ということで使用禁止となることは容易に想像できる。

だから、今のうちにこうして書いておくのである。あーっはっは、FOXP2欠陥野郎。DCDC2グチャグチャかよ。SLC6A4かDRD2おかしいんでないかい。あははははは。

さて、この文章が「差別的だ」という判断を下されるまでに何年かかるでしょう。「10年以下」「10年以上」の二つにわけて賭けでもしますか。誰か乗りませんか。

2008年8月5日火曜日

ジャルコな日々

かつて「熱帯夜」という言葉があった。一晩中気温が25度を下回らない、そんな暑い夜を指す言葉である。ところが今じゃそんなのは当たり前、というか一晩中30度超えてますけど。先日なんか、一晩中クマゼミが鳴いてましたけど。暑ぅ〜。

こういう時には「暑い」「暑い」と口にしてしまうものだ。言ったって仕方ないけれど言ってしまう、これが言語という呪いをかけられた人間の宿命であろう。

そこでジャルコ。いやいや、日本語みたいにかわいく発音してはいけない。日本語で「ジャ」というと口の前方だけ、歯のすぐ後ろの空間だけでちっちゃく発音することが多い。これでは足りない。大量に息を吐き出しつつ舌を大きく後退させ、口の奥から大きく「じゃ」ないし「じゅゎ」という音を出すのだ。その際、唇は自然に前につき出すことであろう。それで良い。

次に「ル」であるが、これはいわゆる巻き舌である。(巻き舌の苦手な人は、単に「る」と言いながら大量の息を吐き出すだけでも良い…けど、ここはやっぱり強めの巻き舌が好ましい。)先程の深く強い「じゃ」の音の直後に出すにふさわしい深さと強さを保てばよろしい。

最後の「コ」は、それまでのことを思うと意外にかわいらしい音である。英語とかドイツ語みたいに強く激しい k の音を出してはいけない。フランス語や日本語みたいに柔らかめの「コ」である。ただし、母音に一工夫が要る。一番最後にフワッと口の力を抜くのである。日本語はある種律義な言語であるから、「コ」という時にはキチンと「コ」と発音し、その発声が終わってから口の力を抜くのが基本だが、ここでそんな他人行儀は無用である。自分としては発声の終わりなのだから、そんな自分の都合を相手に伝えてしまってよろしいのである。したがって、「コ」と言いながらすでに口の力を抜くことになる。すると、結果として「コヮ」ないし「コァ」みたいな音が出る。それで良い。それが良い。

では、以上を続けてやってみましょう。強く深く息を出して「じゃ」、同様に強く深く息を出して巻き舌で「る」、最後にかわいく「こゎ」。さぁさぁ、ボーッと読んでないで、ちゃんと言ってくださいよ。じゃ、る、こゎ。ジャ・ル・コヮ。ジャルコ。жарко.

これであなたはロシア語で、しかもほぼ完璧な発音で、「暑い」とつぶやいたことになる。どうです。少しの間、暑さを忘れてましたでしょ。そしたら、こんなバカなもの読んでないで、もうちょっと建設的な活動に戻りましょう。…っつーか、それにしても…ハイ皆さんご一緒に♪「ジャルコ!」

2008年8月4日月曜日

楽しいバグを保存すます

.Mac 改め MobileMe というサービス、出だしの頃はバグだらけで不評であった。いや、今でも不満の声を聞く。

そんな中、「メッセージがなまる」という報告を目にした。なに。そんな面白いことが発生するのか。どれどれ。

自己紹介

自分の写真
日本生まれ、日本育ち…だが、オーストラリアのクイーンズランド大学で修行してMA(言語学・英文法専攻;ハドルストンに師事)。 日本に戻ってから、英会話産業の社員になったり、翻訳・通訳をやったり、大学の英語講師をしたりしつつ、「世の中から降りた楽しい人生」を実践中、のはずです。