2010年11月26日金曜日

寒いのかどうか考え込む

短い人生であるからして、いろいろなことを試す。中学生のころ、冬をずっと半袖で過ごしたこともある。これは学校の「制服」なるものに対しての反抗デモのつもりだったが、どーも単なる体を張ったギャグとして理解されただけのようでもあります。

すなわち当該中学校には、夏の制服はこれ、冬の制服はこれと規定があるのだが、夏に冬服を着てはいけないとか、冬に夏服を着るなとかいう規定はなかった。そこで、「制服なんぞバカバカしいよね」というメッセージを制服規定内で表現するため、冬の間も夏の制服で通したわけである。ちゃんと制服を着ているのだから、よく考えるとデモでも何でもないんだけど、まぁ何しろ「与えられた制限内でその制限(の限界)を示してみせる」という趣味(使命?)はその頃から始まっていたのでありますな。もちろん学校から帰ったらちゃんと暖かい服を着ました。寒いもん。

真冬の寒風吹きつける中、歯を食いしばって白い半袖シャツを着続ける変な学生が登校してくるのだから、先生方も持て余していたことであろう。
「おまえ寒くないのか?」
「はぁ確かに寒いようですが、冬の制服がイヤならこうするしかないもんで」
「普通に着れば良いじゃないの」
「そうは、いきません」
こんな要領を得ない会話が何度となく繰り返された。校庭で朝礼なんかがある日は面白かったぞ。一人だけ真っ白な半袖シャツでひょろひょろ歩いていき、突っ立っているのだ。我ながら変なことをしたものであるが、まぁこんなヤツがいても良いじゃないですか。

さて、そんなバカなことをやりながら、不思議なことに気がついた。よく聞かれる「寒くないのか?」という質問、これって妙に答えにくいのだ。そりゃ寒いかも知れないけど…特に寒くもない。「寒い」って、わからなくなる時があるのだ。

暑いのは暑い。徹底的に暑い。あれは、かなわない。汗がドバドバ出る。何とか体温を下げようとするわけだ。

ところが、寒いのは何とかなるのだ。健康であれば。寒風は気持ちが良い。山の清浄な空気は冷たいものである。「ぬるい新鮮な空気」ではピンと来ないではないか。ピンと冷えた空気の中でドンドン動けば暖かくなる。

耐えられない寒気は、健康を失いつつある時に来る。あるいは失っちゃった時に来る。がくがくと体が震え、歯の根が合わなくなる、あれは危険に寒い!感じである。

でも普通に健康な時に「うわぁ寒い我慢できない」って、どうも実感がないのだ。もちろん氷点下20度ぐらいになれば寒いであろうが、日本の大阪辺りにフツーに住んでいて「冬」とかいっても結局大したことない。

そんなわけで、今でも冬はどちらかというと薄着とされる格好をして歩いている。っつーか、近年はホントに冬が寒くないし、歩くと暑い。今日も通勤したら汗タラリでしたよ(ちなみにTシャツ+綿シャツ+夏ズボンです)。どーなってるんだ。

んで、先日BBCのドキュメンタリー番組 'Horizon' の古いヤツを見てたのであります。あの有名なジニーの話(子供時代ずっと一室に閉じこめられて育った、Genie という名前で知られる女性)。この種の(不幸な)ケースは、心身の発達、言語習得などについて興味深いデータを提供してくれるので、我々の業界ではしばしば取り上げられるのだが、我が耳を奪ったのは、「ジニーはまるで寒さを気にしない様子だった(寒さなんて感じていないようであった)」という話である。やややや。

その番組は、もっと以前にフランスで発見されたという「人里離れて成長した少年」にも触れる(日本語では「アヴェロンの野生児」として知られる例のケースである)。この少年もまた、「まるで寒さを気にせず、雪の中を裸になって大喜びで駆け回った」というのである。

ううううむ。寒さって、何なんだろう。後天的に教わったり学習したりして「寒い」と感じるようになるのであろうか。

確かに、人類の歴史を考えれば、氷河期を始めとする寒さに耐えることが生き残り戦略として必須であっただろう。「寒いとダメなヤツ」の遺伝子は消えていったわけだ。人間、先天的には寒さ対応のカラダであるが、後天的に寒さを学び、それに対処する。だから野生児は寒さを気にする様子がない。一方、多くの文明国は寒いところで暖房をしている。…と、そんなことまで言えるんだろか。わかりまへん。

わからんけど、こう考えると、「寒くないのか?」と聞かれた時の奇妙に当惑した感覚が理解できるような気がする。つまり、「はぁ、これですよね、これを寒いってことになってますね、それはわかります。んじゃ、えーと、寒い、のかな、あぁ確かに寒い(のかな)」という不可思議な理路が見えるような気がする。我ながらおかしな内省であるが、ホントなんだから仕方ない。

ところが一方、夜寝る時や、春休みに部屋にこもって仕事する時などは寒くてたまらないのだ。スキー用品まで動員してスゲー厚着をする。我ながら野生児なのか何なのかわかりません。寒いという事態、いろいろと複雑なのであります。

1 件のコメント:

熊本にいる人 さんのコメント...

暑いのはいくら裸になっても暑く、自分では如何ともできないのだけれど、寒いのは服を調整したり動いたりして、自分で何とかできる。暑いと寒いは、単に体温との相対的な関係だけでは決まらないなあと私も思ってたなあ。昔。

自己紹介

自分の写真
日本生まれ、日本育ち…だが、オーストラリアのクイーンズランド大学で修行してMA(言語学・英文法専攻;ハドルストンに師事)。 日本に戻ってから、英会話産業の社員になったり、翻訳・通訳をやったり、大学の英語講師をしたりしつつ、「世の中から降りた楽しい人生」を実践中、のはずです。