2008年4月18日金曜日

借金取りには超越モードで対応

およそ借金をしたことがない。そりゃもちろん「あ、ちょっと200円貸して」とか「今夜はごちそうさま。今度おごるよ」的なことをやらないわけではないけれど、実はそれも抵抗あるぐらいである。要するに、「あぁこの金は返さにゃならぬ」という気分でまとまった金を借りる習慣がないのだ。っつーか、怖くてできない。クレジットカードを使う場合も常に「一括払い」である。存在する金しか使わない。(…と自分では思っている。のがアブナイのかも知れんなぁ。)

これは、通貨が記号化して独り歩きする資本主義社会においては損な性分である。金利が安い時にドーンと借金して家でも買って、その家を担保に更なる借金をするとともに、家の値打ちが上がったところを見計らって売り、同時に次なる借金をして…というのが、現代の日本や米国みたいな「お金の国」においては要領の良い、賢い身のこなしなのかも知れない。

もっとも、それをやり過ぎた米国を見よ。特にこの10年ばかり「存在しないお金」がグルグルと社会を駆け巡って経済を支えていたことが明らかになってきた。んで、「ところで、そのお金はどこ?」という話になった途端、経済の根幹からグズグズと崩れ始めている。それを思えば、借金怖くてできませんという性分も、ある意味健康で良いではないですか。

ではどうして借金取りの影におびえねばならぬのか。実はですね。久々に大学という職場に戻って業務しているわけです。すると久々にSくんにも会う。まぁ同僚というか元バンド仲間で飲み仲間のニュージーランド人である。いろいろと与太話をするうちに「またビール飲みに行こうぜ」といつものノリになった。

途端に思い出した。そうだ。この前こいつと飲みに行った時には徹夜になったんだ。んで、最後に行った店の支払いをせずに帰ったのだ。あぁ思い出したよ。げげげ。

顔色を隠しつつ、「あはは、たしか、こないだの借りがあるから、今度は最初の何杯か払うし」と付け加える。あぁ。借金を返す義務とはこういう気分か。あっちは「あーそうだった」と喜んでいる。くそ。貸した方は余裕の気分か。まぁこの人の場合、実は引ったくりの被害に遭ったばかりなので、いずれにせよ同情杯を何杯かおごられるべきかも知れぬ。

Lくんとも顔を合わせる。「どーもどーも、こないだはどーも」と無意味な挨拶を言い始めて気がつく。あ。借金。

春休みの間に翻訳を何本かやったが、そのうち3本でこの英国人のLくんに手伝ってもらったのだ。それでお代を頂くからには、その一部をLくんに回さねばならぬ。っつーか、そういう契約で雇った形なのだ。「あぁ、あれね、こっちもまだお代をもらってないから、申し訳ないけど、ちょっと待ってね」…あぁ借金とはこういう気分か。あうぅ。

ついでに記憶が甦る。そう言えばあの医療器具紹介ビデオには苦労したなぁ。英語のビデオをもとにまずは英語の原稿を作るのだが(依頼人は翻訳が必要な人のはずなのに、何でそんなものが要るのだ)、それがなかなか難しい。そのために雇ったはずのLくんにもわからない。仕方ないので内容をジワジワと理解していきながら仕上げていくのである。

あぁ、そう言えば最後の最後でやっとわかった語句があったな。ある医者がスルスルと喋っているのだが、その問題の部分で何を言っているのかわからない。そもそもこの人、時々つっかかりながら懸命に喋っている。しかも問題の語句の音は「ひゃらほれはれ」とハッキリしない音が並ぶ。さらに、その箇所には、ビデオに起因する雑音が「ザザッ」と入っているのだ。こりゃ誰にもわからんわいと思われた。

普通、こういう時は「わかりましぇ〜ん」で良いのである。その話の内容が非常によくわかっている人ならスッと聞いてわかるかも知れない。しかし、いわゆる一般の人にはわからないであろう。っつーか、あの雑音じゃ何もわからんって。英語話者が英語のビデオを見てもわからないものを、日本語話者が日本語版を見た時にはわかるなんてのは、翻訳者のやり過ぎとも言える。まぁ、できないものはできない、本物のプロならこれでよろしいのである。

そうと決まれば話は早い。あとは遊びだ。本物のプロにこだわることもない。というわけで、まずは、その医者が着ている白衣に記された病院名とその医者の名前らしきものからその医者の所属とフルネームを突き止める。インターネット検索とは恐ろしいねぇ。電子メールのアドレスもわかったので本人に聞こうかとも思ったが、何しろ時間がない。っつーか、もうこっちは遊びモードなんだし。まぁとりあえずその医者の専門分野らしきものを確認しておく(すると言葉遣いがある程度絞り込める)。

それからまたビデオを見る。今度はその医者の口をにらみながらコマ送りである。口が開いて、舌が上方に向かって動いて、唇がやや突き出されて…という動きを何度も何度も見る。同様の言語学的訓練を受けた人ならおわかりであろうが、これでかなり「出ているはずの音」が絞り込める。

それからその前後の語句を検索しまくって、それっぽい音の語句を探すのである。長い時間をかけた揚げ句、問題の箇所が hyaluronic acid という二語であることが判明した時にはずいぶん疲れてましたよ、ホンマ。まぁ、こんなアホなことしなくても良いんだけどね。

あれあれ何の話だっけ。あぁそうだ。それでもLくんに払うものは払わないといけないのだ。あぁ借金とその哀しさ。

ここまで考えると、重く暗い考えが頭をかすめる。今回は、たまたまこうして借金相手の顔を見たから思い出したのではないか。この調子で知らないうちにどこかで借金をしているのではないか。そして忘れているのではないか。どどど。どきどき。

こうなると、これを読んでいる人は、この弱みにつけ込んで「おーい、あのお金のこと、忘れてないよね」という言葉を投げ掛けてやろうと思うことであろう。わははは。その手には乗らんぞ。もう超越モードに入っちゃうもんね。お互い、この地上に生きとし生けるものではないですか。一瞬の生を共有しているに過ぎないのですよ。

わははは。この生命、この世界、いわばすべて借り物。そうしてまた我々はどこかへ帰っていくのですよ。わはははは。生きているとは不思議なことですな。わはははは。では失礼。

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