2008年8月16日土曜日

この種の性向も遺伝子なのか

数年前の話であるが、人間の言語を規定しているらしい遺伝子が特定されたというので話題になった。それはFOXP2という遺伝子で、これに何らかの欠陥があると普通に言語が使えない。

こういう発見は一般受けする。あぁそうか。何でも遺伝子で決まっているのか。人間の言語も、何だか知らないけれどもFOXP2で決まるのか。そうか。そうだと思ったよ…。というわけである。

難読症というのがある。字が読めないのである。学習障害の一種として知られている。そして、やはり難読症にかかわる遺伝子が特定されたことになっている。それはDCDC2と呼ばれる遺伝子で、これに欠陥があると難読症が引き起こされるというのである。

これがまた、受けるのだ。そうか。ウチの子は成績も悪く本も読まず困っていたけれど、DCDC2遺伝子に起因する学習障害なのか。あぁ良かった、とまではいかないにしても、何らかの納得と安心を得る。

統合失調という病気がある。日本語の世界では、かつて分裂病と呼ばれていた。人間理解の鍵を握るとも言われる、大きな謎に満ちた病気である。そういう分野であるからして、関連すると言われる遺伝子もNRG1、14-3-3η、SLC6A4、DRD2、CNR1、CNTNAP2、UHMK1その他いろいろ挙げられている。(もちろんこうやって書いている本人には、これらの遺伝子のどこがどうなっているんだか何なんだか皆目わからない。Natureのサイトからホイホイ書き写しているだけである。)

これだけいろいろ挙げられていることからも明らかな通り、この発想は受けるのである。あぁそうか。いかにも狂ったという様相を呈する典型的な精神病だから何だかコワイと思っていたけれど、遺伝子か。自己の病とか記号の病とか言われて現代哲学のネタになり、難しそうに思っていたけれど、なんだ遺伝子か。そうか。

他の分野でもこの調子で類例を挙げるとキリがないことであろう。何しろこの種の決定論的「説明」は受けるのだ。事実、この種の研究には結構お金が出たりする。つまり「売れる」のである。

もちろんこの種の性向は昔から存在する。遺伝子で決まっているのではないかと思いたくなるほどである。言葉が遅かったり字が読めなかったりする子供はバカと呼ばれ、しかし親は「バカな子ほどかわいい」という諺に支えられて、「神様に何とかしてもらおう」と神社やお寺に参ったりしたのである。もちろんそこには御賽銭箱や御布施袋が待っている。つまり、「これは神様の思し召しである」という説明が売れたわけである。

もちろん、「神の思し召し」ということにしても、「遺伝子で決まっている」ことにしても、本質的には何も変わらない。とにかく何かのせいにし、そしてお金を払うという構造である。

とにかく、自分のせいでもなく、自分の力の及ぶことでもないという説明は売れるのだ。「どうせ、もう、決まってるんです」という説明は売れるのだ。だから占星術も血液型性格診断も宗教的終末論も売れる(売れた)のだ。

いつの日か、遺伝子による説明は売れなくなるであろう。するとまた新しい説明が「発見」され、それが売れるであろう。物事はいろいろ変わりつつ、何かが変わらない。いつものパターンである。

そしてまた、いくら学習障害などと名前を付けても、しつこく強い差別意識が消えることはないであろう。「おまえ、学習障害かよ!」「あいつのDCDC2はボロボロ」といった言語表現が小学校発で広がり、やがて学習障害もDCDC2も差別語ということで使用禁止となることは容易に想像できる。

だから、今のうちにこうして書いておくのである。あーっはっは、FOXP2欠陥野郎。DCDC2グチャグチャかよ。SLC6A4かDRD2おかしいんでないかい。あははははは。

さて、この文章が「差別的だ」という判断を下されるまでに何年かかるでしょう。「10年以下」「10年以上」の二つにわけて賭けでもしますか。誰か乗りませんか。

0 件のコメント: