2008年8月30日土曜日

ドラム叩きの休日

朝起きて淀川のほとりを走る。こういう健康な日課が復活するのであるから、夏休みとはありがたいものである。…と思った途端に二日酔いで走れない日が続いたりするのだが、それはまた別の話。

わずか3キロちょいの道程ではあるのだが、走るときにはナイキ+iPodを利用する。走った距離等々を勝手に記録してくれるし、何か聴きながら走れるので退屈しない。

このナイキ+iPodで便利な機能に powersong というのがある。その瞬間に何を聴いていようと、とにかくiPodの真ん中のボタンをグッと長押しすると、あらかじめ選んでおいた1曲に切り替わるのである。その曲が終わると、また先ほどまで聴いていたものの続きに戻る。普通はポッド放送でニュース番組なんか聴きながら走っているので、この「パワーソング」機能でパッと音楽に切り替わると新鮮である。

この「パワーソング」に選ぶ曲はコロコロ変わる。近頃気に入っているのは Peter Gabriel の 'Whole Thing' である(これは最近出た Big Blue Ball というアルバムに入っております)。その他、Sa Ding Ding の 'Alive' とか、浪速エクスプレスの 'Vacuum Vox' なんかも気分よく走れる。

(これらの曲をご存知の方は、「ん? そんな曲でどうやって走るんだ?」とお思いになるかもしれない。実はですね、その話なんですよ。)

さて、そんなのでペースを上げて走りながら気がついた。自分にとって、音楽のテンポと走るテンポは全く別物なのだ。聴こえてくる音楽のテンポは全く無視している。ノリないしうねりの良い音楽であればバンバン走れる。これには自分でもちょっと驚いた。

世の中の多くの人たちは「自分の走るテンポに合うテンポの音楽」を選んでリストを作っている。色々な曲のテンポを明示した「走るときの音楽を選ぶためのサイト」まで存在する。そういえば軍隊だって運動会の生徒だって行進曲に合わせて歩くではないか。パーティなんかでは音楽に合わせて踊るではないか。あれが普通なのだ。皆さん、音楽に合わせて動くのだ。

'Whole Thing' を聴きつつ、走るテンポを徐々に上げながら考えた。こうやって自分の走るテンポを上げていったりできるのだから、聴こえている曲のテンポには合わせとらん、っつーか完全に無視してるわなぁ。しかし、曲のノリ・うねりに合わせてる感じはあるわなぁ。ははぁ。やっぱ、ドラマーってことか。

ドラマーはリズムに合わせない。これは、ドラムを叩かない人にはあまり知られていない事実かもしれない。

もちろん、「ハイこれに合わせてね」とリズムを提示すれば上手に合わせてくれるであろう。しかし、実のところ、それはドラマーの仕事ではない。ドラマーの役割は、その場のうねりを引き取って、それを表出することにある。

これが習い性となると、日常生活にも持ち込まれる。とゆーか、「そういう人」がドラマーになるわけである。何かにカッチリ焦点を合わせ、それに反応するという行動は苦手である。むしろ、「その場にある何かを取り込んで何らかの焦点を造り出してそれに自分も合わせようとする」というややこしい行動をとる。

だからドラマーには「変な感じの人」が多くなる。目は相手を見ているようで見ていないようだし、何が欲しいのがハッキリしないし、それでいて何か探しているような物欲しそうな顔をしながら結局その場のテンポを引っ張ってしまうということになる。いるでしょ、そういう人。ドラマーなのですよ。

ずいぶん前に読んだ山下洋輔の本に「ドラム叩きはガイキチ」という小文があった。要するにドラマーはオカシイという、そのものズバリの内容である。

一昨年だったか、当時一緒にバンドをやっていた奴とばんばんビールを飲んでいたときもそんな話になった。そいつは「ドラマーはみんな狂ってる(mental)。これまでに何人も何人もドラマーを見たし一緒にやったけど、例外なし。みんな狂ってる」と断言していた。当のドラマーを相手に言うのだから大したものだが、まぁ多くのバンド経験の上で語っているのだからそれなりに拝聴の値打ちはあろう。

そう思ってふと振り返ると、もう20年以上ドラムを叩いている。もちろん中断もしているし、何より最近はめっきり練習もしていないし、大して上手くもない。しかし、どうやらそういう問題でもないらしい。世界から乖離して世界を見つつ世界を造り、その世界から乖離して…という無限グルグル運動においてリズムとうねりを生み出す。そういう矛盾した在り方が習い性となっているヤツはみんなドラマーなのだ。

そんなことを考えながら走ってシャワーを浴びて仕事にかかる。でもすぐ飽きて YouTubeでカール・パーマーのインタビュー(珍しい!ファン必見!)を見る。この人がこんなに長く自分の考えを語るのを初めて見た。結構上手にしゃべれる人である。相手の質問はキチンと聞くし、自分のやっていることについて素直に語れるし、いわゆるロック音楽屋にしては語彙が豊富だし、全体に流れが良い。

ところが何かが変なのである。目が泳ぐ。時として変に自分の世界に入る。自分の好みは語らない。自分のやっている音楽について奇妙なまでに客観的な位置づけを行う。あぁ。これは完全にドラマーだ。

この調子でギター弾きの性格、ベース弾きの性格等々を続けたいような気もするが、何しろ休日ですからな。本日はこれまで。

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自己紹介

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日本生まれ、日本育ち…だが、オーストラリアのクイーンズランド大学で修行してMA(言語学・英文法専攻;ハドルストンに師事)。 日本に戻ってから、英会話産業の社員になったり、翻訳・通訳をやったり、大学の英語講師をしたりしつつ、「世の中から降りた楽しい人生」を実践中、のはずです。