2009年1月9日金曜日

アメリカ英語を話す人々

イスラエルは奇妙な国である。「ガザなんていらないよ」と公言しながら、そこに居る人々をドンドン殺戮する。誰だって眼の前で残虐に家族や仲間が殺されれば「何をしやがるんだ」と思うものである。だから「イスラエル憎し」というグループができ、力は及ばないながらも仇討ちを試みる。イスラエルはこれをテロと呼び、さらに残虐な殺戮を猛然と行う。

長年続くこのパターン、もちろん「イスラエル」を「アメリカ」と読み替え、「ガザ」をアフガニスタンとかイラクとかコソボとかその他多数の地名に置き換えれば、アッと言う間に「今日の世界情勢入門」修了である。ガザにせよ、停戦の提案はすべてイスラエルとアメリカの二国が却下ないし無視する。これほどわかりやすい図はないと思うのだが、聡明な大学生諸君などまでが「中東事情は難しいですからねぇ」などと思考停止なさっているのだから、メディアの力は大したものである。しかし、そんなメディアを通じてでも何かを感じることはできる。

BBCのニュースで今回の殺戮についてイスラエル側の人がインタビューを受けているのを聞く。その女性は、奇妙に明るい、張りのある声で「だってハマスは最悪のテロ組織なんだもの。イスラエルは爆撃の前、ガザの人々の上に予告のビラをまいたのよ。それは凄い数のビラで、雪のように降ったのよ。それを見ればわかった筈だし、普通の人は逃げれば良いのよ。悪いのはハマス、攻撃対象はハマス」と妙に流暢なアメリカ英語で述べた…流暢ではあるが明らかにその人の母語ではないのがわかる、奇妙な緊張を持った声である(第一、ハマスの「ハ」の音が英語じゃないもんね)。

イスラエルの役人も同様である。「ハ」の音のきつい「ハマス」を繰り返しながら、いかにイスラエルが当然のことをしているかを力説する。「ガザでは殺戮されて困っている民間人が続出しているんですけど」とBBC側が水を向けると、「そういう人もいるでしょうけど、あなた、ちゃんとあっち側の代表的な声を聞きましたか。皆さん、ハマスというテロ組織の圧力から自由になって喜んでいますよ。そっちの方が大事」と力強く力説する。その言い分もさることながら、それをすべて差し引いて、純粋に言語事実として観察しても、その奇妙な英語は、イントネーション、ものの言い方、すべてがアメリカ英語的なのだ。聞いていると本当に不思議な気分になってくる。

それから数日経った。BBCは在ロンドンのイスラエル大使にインタビューする。イスラエルは民間人の虐殺を続けており、「3時間」とかいう一時的停戦協定をも破っており、あろうことか救急車を狙い撃ちしており、さすがに言い訳がしにくくなっているが、それでもイスラエル大使は「でも悪いのはハマス」を繰り返す。ロンドン在住のせいであろうか、特にアメリカ英語!という印象はないけれど、やはり奇妙に緊張した流暢な英語である。

…ところがそれがガラガラと崩れる。それはBBC側が「それをもう25年間おっしゃってますが理由にはならないようですね」「だからといってこれだけの数の民間人犠牲者を出して良いことになりますか」と畳みかけたときである。イスラエル大使は一瞬絶句し、「う、それは、良いことにはなりませんよ。あなた、戦争ってのはね。そういうもので。良いことじゃなくてでもね。ガザが今ある、他のね受けたイスラエルの、あ、そこの」…と語順も語句も狂った英語にはまりこんだのである。

このインタビューだけ聞いていたならば、「あ、都合の悪いことを聞かれてしどろもどろになったな」とか思うところだが、数日来ずっと「イスラエルの人がアメリカ英語的にアメリカ的論理を展開する」のに耳を傾けていたので、純粋に言語的な意味で「あ、イスラエルの人のアメリカ英語が崩れた」と感じられた。それは不思議な感覚だった。

イスラエル大使はすぐに立ち直り、上手な英語でイスラエル擁護を続けた。この人、この英語の皮をむいたら結構良い人なのかも知れない。

アフガニスタンの「民主的政権」とやらもアメリカ英語を理解する人々である。もちろん、営利企業アメリカが選んだのである。イラクも同様である。

ところで日本では知らないうちに「小学校で英語」とか「高校の英語の授業は英語で」とか言い始めていますな。いや、実は、中学校なんかですでに米国人が一人で「先生」している現場もあるんですよ。これって日本の法律による「先生」になのかなぁ。

もう待ってられない、日本の人たちも流暢なアメリカ英語でアメリカ的なことを語れっていうことでしょうか。もちろん当初の教育効果はゼロでしょうけれど、法律ってヤツは一度作ればドンドン姿を変えていきますからねぇ。当初は「特殊な職業の人のため」に作られた法律がアッと言う間に派遣切りの道具になるんですよ。こういう技は、金儲けのうまい弁護士が考えつくんでしょうねぇ。

そういう弁護士にとって裁判員制度はオイシイでしょうねぇ。素人を説き伏せる、これがアメリカ流弁護士の腕の見せ所ですからねぇ。

教育もなく弁護士にもなれずイラクに派兵された米国人は大変ですよ。死亡者の5%が自殺なんですから、どんな状況か想像するとねぇ。命が助かって帰国しても、何のサポートもないので、その三分の一がホームレスだといいますねぇ。それが日本にさえ行けば英語の先生になれるというんなら朗報でしょうねぇ。何しろ小学校という新規開拓地が公立だけで23,000校ありますからねぇ。ノバみたいにつぶれないだろうし。

今日もイスラエルはアメリカ英語で「悪いのはハマス」と繰り返しながら殺戮を繰り返す。イスラエルに対する撤退要求が満場一致で決まった…中で唯一棄権した国は、もちろんアメリカである。きっとアメリカ英語を話しながら。

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自己紹介

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日本生まれ、日本育ち…だが、オーストラリアのクイーンズランド大学で修行してMA(言語学・英文法専攻;ハドルストンに師事)。 日本に戻ってから、英会話産業の社員になったり、翻訳・通訳をやったり、大学の英語講師をしたりしつつ、「世の中から降りた楽しい人生」を実践中、のはずです。